の、むこう。鉄男のフライパン

お店番おーたと主夫さいとうが交わす、趣佳とはほとんど関係のない話を不定期にお届けします。

暮らしにまつわる話が中心なので、全く関係がないわけでもない(という願いも込めて)ということで「の、むこう。」という名前にしました。

おーたの「これ、どうなんでしょう?」という大して意味もない質問に、家事好きさいとうが無駄に真剣に語ります。真剣ではありますが、趣佳のことはあまり念頭にありません。

さいとうは家事好きですが、別にカリスマでもスーパーでもないので、これを読んで人生が変わることも、運が向いてくることもないと思います。
多分。

 

 

第2回 鉄男のフライパン – 後編 –

 

おーたさん

前回は、お互いのアイコンの変更がメインの話題でしたが、さいとうさんの鉄のフライパンとの付き合いの歴史、油返し(しない)など基本的な扱いについても教えてもらいました。
鉄のフライパンについて基本的な扱い以外にコツのようなものがあれば是非語ってください。

さいとうさん

そこです!そういうのって、みなさんなにがしかお持ちだと思うのですけれど、優れて感覚的なことなのでなかなか言語化するのは難しいです。それでもお伝えしたいことがあるので、なんとか語ります。

さいとうの語り:鉄のフライパンのコツについて語ります

鉄のフライパンの扱いで二つお伝えしたいことがあります。とてもささやかなことです。
一つは、フライパンに食材を乗せたらしばらくはさわらずに焼き目をつけることです。この感触をお伝えするのは難しいのですけれど、菜ばしでチョチョっとつついて、簡単に剥がれるようになるまで待ちます。

もう一つは、最近ハマっている白い粉です。癖になってなかなかやめることができないアレ。
片栗粉です。片栗粉を使うとフライパンへのこびりつきが極端に減ります。片栗粉をとろみつけにしか使わないなんてとってももったいない話で、ソテーの局面におけるパフォーマンスは筆舌に尽くしがたいものがあります。
このところ我が家では小麦粉よりも片栗粉の消費がずっと多いです。

水切りした木綿豆腐に軽く塩胡椒で下味をつけ、片栗粉をまぶしてソテーすると、むっちりして本当に美味しいです。

鶏の胸肉なんかも酒と塩を揉み込んでから片栗粉をまぶしてソテーすると、カリッと綺麗な焼き色がついて、それだけでもうご馳走です。

シンプルに鶏もも肉を塩だけでソテーするのも好きなのですが、自家製のしょう油麹に漬け込んで片栗粉をまぶしてソテーするとほぼ唐揚げです。我が家では一枚唐揚げと呼んでいます。しょう油が入ると焦げやすくなるのですが、片栗粉をまぶすことによって防ぐことができます。

ちょっとした工夫で、たっぷりの揚げ油を使わなくても家庭で唐揚げを楽しむことができるんです。

さらに、加熱により固まるという性質を生かして手抜きかき揚げもできます。
斜め薄切りにしたごぼう、金時人参、生姜に塩胡椒、そして片栗粉をボールに入れて混ぜ合わせ、中華鍋に放り込むと底の方で勝手に丸くまとまってくれます。外側カリッと、中はとろりとした食感を楽しむことができます。

おーたさん

ありがとうございます。でも、まだ全部食べる機会をもらっていません。次の料理会はいつにしましょう。
今では相当に習熟されているようですが、死角はないんですか。

さいとうさん

「鉄パンです」と答えたいところですが、道具を活かすための知恵、道具がなければやはり扱いは難しいと言わざるを得ないと思います。
火加減、ぺらぺらのターナー、たわしとささらは必須だと思います。

の、むこう。鉄男のフライパン

おーたさん

火加減は難しいですが、ぺらぺらのターナーは僕も持っています。

さいとうさん

もう一つ、自分だけで使っている分には鉄のフライパンは最高なのですが、料理する人が他にもいる場合、その人も使うことができるのか、というのは大きな問題になると思います。

おーたさん

鉄のフライパンを使うのはさいとうさんだけなんですか。

さいとうさん

正確には、料理をするのがぼくだけです。
ぼくは2012年にはほぼテフロンのフライパンを使わなくなったのですが、当時はまだパートナーが料理をすることもあったので手放すことができませんでした。2016年に手放すことができたのは、パートナーの仕事が忙しくなって料理をすることがなくなったというのが理由の一つです。

おーたさん

テフロンのフライパンを手放して不安はなかったんですか?

さいとうさん

最大の決め手は、厚焼き玉子を鉄のフライパンで焼くことができるようになったことでした。これでもう卒業だろう、と。
玉子を扱うときは少し強めの火加減にすると焦げ付きにくくなります。ちょっと勇気が必要ですけど。
実際に画像を見てもらった方が良さそうです。形はともかく、なかなか美しい焼き色です。

の、むこう。鉄男のフライパン

おーたさん

今更なんですが、鉄のフライパンはそもそも何がいいのでしょう。

さいとうさん

今更ですね。おーたさんが我が家で何度も食べた皮パリパリの地鶏ソテーが全てを物語っていると思います。焼いた表面のカリッとした感じはテフロンでは難しいと思っています。

おーたさん

皮パリパリの地鶏ソテー!めちゃくちゃおいしくて、さいとうさんに教えてもらってからうちの定番メニューになりました。

さいとうさん

ありがとうございます。そういう風に誰かの役に立てるというのはとても嬉しいことです。ぼく自身は大した人間ではありませんが、色々と役に立つことを知っています。人から教えてもらったことがほとんどですけれど(伊丹十三『女たちよ!』へのオマージュ)。せっかくなので、鉄のフライパンの魅力について語ります。

さいとうの語り:鉄のフライパンの魅力について語ります

焼き上がりが美しくて美味しい、ということが鉄のフライパンを使っている最大の理由です。でも、それだけではもちろんなくて、こびりつきの出たテフロンのフライパンを廃棄する罪悪感(まさにぼくにとっては罪悪感です)もあります。
そして、何を楽しいと思うかは人それぞれなので一概には言えませんが、フライパンのコンディションによって料理に出来不出来があること自体がぼくにとっては楽しみなのかもしれません。
出来が良ければ素直に嬉しいし、出来が悪ければ、何が原因だったのかを考察すること自体も楽しんでいるような気がします。
料理で毎回冒険する必要もないと思いますが、約束された結果はそんなに楽しいものでもないと思います。

この画像は先ほどの厚焼き玉子を焼いた直後の何も手を加えていない22cmフライパンです。縁に少しかすがついていますが、ツルツルで綺麗なものです。

の、むこう。鉄男のフライパン

調子がよければパンケーキもグルングルンしますし、最近では中華鍋で焼きそばがグルングルンしています。
ずっと鉄の中華鍋で焼きそばをしっかり「焼く」ということが夢だったんですが、なかなか実現せず、野菜の上で麺を蒸すという「逃げ」に走っていました。
最近になってその問題を克服し、最近は夕食に焼きそばが頻繁に登場しています。今では外で焼きそばを食べる気になりません。表面にカリッと火が通り、中はむちむちの中華麺というのは何とも楽しい食感です。味付けは塩ベースに香りづけ程度にオイスターソースがおすすめです。
ある人からは「酒が飲める焼きそば」と評されました。

今ではもう何がハードルだったのか、思い出すこともできません。

具体的には麺を焼く前に、電子レンジで温める(1袋なら30秒)だけなんです。火加減はお話しした通りですし、油を多めに引くということもしていないです。
中華麺をまず焼いて取り出し、続いて野菜を焼いて取り出し、最後に肉を焼いてから麺と野菜を戻して合わせて味を整えます。具材にはつど塩で下味をつけておきます。
美味しく頂くために日々精進です。

テフロンは熱くなりにくい、という基本的な性質があるようで、それで焼くのですから、まあ色々と無理があるのでしょう。丁寧に扱っても寿命はせいぜい3年か4年だと思います。

おーたさん

焼きそばといえば、趣佳でお取引のある寺村光輔さんの器がとてもいいんですよ。大きめのオクトゴナルや楕円のプレートは好評でいつも早めになくなってしまいます。

さいとうさん

宣伝ですか。

おーたさん

いえいえいえいえ!本心です。ちなみに6月に個展がありますのでお楽しみに。

さいとうさん

しっかり宣伝しましたね。
あっ!

おーたさん

えっ?

さいとうさん

最後になって急に思い出しました。実は鉄のフライパンの他に、アルミのフライパンを持っていました。

おーたさん

もう紙面も尽きかけているというのに、今更ですか?

さいとうさん

過ちを改むるにしくはなし、です。Webですから紙面も関係ないですし。

おーたさん

ということは、さいとうさんはフライパンを3本使っているのですか。

さいとうさん

まあ、そうです。
アルミのフライパンはオイル系のパスタを仕上げるときにとても便利です。にんにくの色が変わっていく様子がよくわかります。

おーたさん

それだけのためのアルミのフライパンですか?

さいとうさん

いえいえ。
これは是非お勧めしたいのですが、魚の煮付けを作るときにもとても重宝します。我が家では煮付け用の出番の方が多いかもしれません。

おーたさん

フライパンで煮付けですか。

さいとうさん

大きめの魚を煮付けにするには雪平よりも扱いやすいと思います。
イタリア料理のアクアパッツァなんて、料理の骨格は塩味の煮付けですよ。
煮付けはとても簡単な料理なので是非作って欲しいです。水分量は大した問題ではなく、魚に対してしょう油の量を決め、しょう油と等量の砂糖を加え、水をひたひたより少なめ(身が全て浸からない程度)に加えて強めの中火で煮立たせ、落し蓋をして少し火を弱めて煮詰めていけばいいんです。ごぼうやわかめなんかを加えるといいでしょう。

おーたさん

今頃になってそんな大切な話を!

さいとうさん

すみません。「鉄」に熱中するあまり、アルミを忘れていました。

おーたさん

それにしても今回は役に立つ話をたくさん聞くことができました。
特に、大地震の直後に鉄の22cmフライパンを買った経緯には感銘を受けました。時には人間、そういう「えいや」で飛び込む勇気も必要だと痛感しました。

さいとうさん

おーたさんも何か飛び込むのですか?

おーたさん

はい。
さいとうさんのふたまた期間が11年も続き、今もアルミのフライパンを使っているということで、僕も鉄に固執するのもどうかと思いました。
早速テフロンのフライパンを買ってふたまた生活に飛び込むことにします。テフロンで餃子を焼いてみたいとずっと思っていました。
僕にとっての「気にかかっていたけど先延ばししていた用事」なんです。

さいとうさん

せっかくこれだけ鉄のフライパンについて語ってきたというのに、テフロンのフライパンを買う決心をするとはいささか微妙ですが、お役に立てて何よりです。

おーたさん

経験せずに悶々とするのも健康に悪そうですし、3年で別れることができるなら後腐れも無さそうです。

 

おしまい

タイトルイラスト:小林あつ子
https://atsukokobayashi.tumblr.com/

 

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