
お店番おーたと主夫さいとうが交わす、趣佳とはほとんど関係のない話を不定期にお届けします。
暮らしにまつわる話が中心なので、全く関係がないわけでもない(という願いも込めて)ということで「の、むこう。」という名前にしました。
おーたの「これ、どうなんでしょう?」という大して意味もない質問に、家事好きさいとうが無駄に真剣に語ります。真剣ではありますが、趣佳のことはあまり念頭にありません。
さいとうは家事好きですが、別にカリスマでもスーパーでもないので、これを読んで人生が変わることも、運が向いてくることもないと思います。
多分。
第2回 鉄男のフライパン – 前編 –

第2回のテーマは、第1回「わたしとたわし」にも出てきました「鉄のフライパン」です。男が語る鉄のフライパンということでタイトルは「鉄男のフライパン」にしました。
ところでさいとうさんのアイコン、ヒゲが生えましたね。

気づきましたか。眼鏡だけだと「新八※と区別がつかないあるよ」とある人から言われたので、ちょっと変えてくれるように店長に頼み込んだのです。
そういうおーたさんもすごくワイルドな感じになりました。眉毛が格好いいじゃあないですか。
※新八・・・人気漫画『銀魂』の登場人物。志村新八

今回のタイトルが『鉄男のフライパン』ということで、どうも雰囲気に合わせて趣佳の方で配慮してくれたようで。

でもまだ連載は2回目ですし、アイコンが変わったことにはぼくたちしか気づいていないと思いますよ。

だからこうして注目してもらうように話題にしているのです。

そうでしたか。
パートナーからは、二人ともヒゲ眼鏡になってしまって、却って区別がつきにくい、と言われましたけれど。

まあ、アイコンくらい、お互いに自分が気持ちよければ良いんじゃないですか(ウキウキ)。僕はSNSのアイコンも全てこれにしてしまいました。
なんだか、人格まで変わったような気さえします。

そーですね。自分が気にするほど、他人はぼくたちのことを気にしてくれるわけでもないですし。
念のためですが、ぼくのアイコンの一番下のもじゃもじゃは唇じゃあないですからね。

そうだったんですか。唇かと思っていました。ステテコに腹巻がすごく似合いそうです。

ステテコに腹巻、ヒゲ眼鏡といえば、バカボンパパと波平さんを思い出します。波平さんはぼくの一つ下になってしまいました。
そして僕も趣佳さんの腹巻、愛用してます。この冬は随分とお世話になりました。あれは食わず嫌いでした。
ところで趣佳さんは毎回テーマに合わせてアイコンを変えてくれるんですか?

いやー、そこまではまだ僕たち働いていないと思います。

では、働きますか。

はい。話を戻します。
鉄のフライパンといえば、さいとうさんのお料理では避けて通れない料理道具ですし、深く掘ればいくらでも話ができそうです。
ということで、長くなりそうですが鉄のフライパンってどうなんでしょう?

いいんですか、長くなっても。多分長くて、そして熱いですよ。何と言ってもフライパンですから。
我が家にはフライパンが2本、22cmと26cm、そして30cmの中華鍋があります。3本とも鉄製で、テフロンのものは持っていません。

自宅も鉄のフライパンしかなくて、小さめのターク、大きいフライパンと中華鍋でさいとうさんとほぼ同じ顔ぶれです。

テフロンはやはり使っていないんですね!
我が家は22cmが10年選手で、そのほかは15年以上です。鉄のフライパンで産湯を使ったような記憶があるのですけれど、記憶はあやふやなものです

鉄のフライパンを使い始めたきっかけは何ですか。

炒飯が作りたい!という思いで。勢い余って同時に中華鍋も買ってしまいました。2005年のことです。
22cmを買ったのは2011年3月20日です。10年前の3月11日に大地震があって、1週間ほどして危機管理用に職場からの徒歩帰宅に備えてスニーカーを買ったのですが、何故か同時にフライパンを買っています。

炒飯でしたか。それにしても大震災から1週間ほどでどうして鉄のフライパンを?

そうですね。その時の心境のメモが残っていまして、「気にかかっていたけど先延ばししていた用事をいくつか済ませてしまう。先の見通しが不透明になると、とりあえず、で動くしかない。」と書いています。22cmにはそういう「えいや」で入手した経緯があります。

鉄のフライパンが「気にかかっていたけど先延ばししていた用事」だったんですか。

当時は「使わずに死ねるか」と思っていたのかもしれません。今から思えば、ちょっと違うだろう、という気がしないでもないですけれど。
非常時に人の本質は出てしまうものです。

趣佳もオンライショップは2011年スタートで、22cmフライパンと同じ時期ですね。この10年色々ありましたけれど、15年となると色々と歴史が積み重ねられているのではないでしょうか。

随分と紆余曲折を経てようやくたどり着いた境地です。鉄のフライパンと歩んだ歴史について語ります。
さいとうの語り:鉄のフライパンについて語ります
鉄のフライパンとの付き合いはパートナーとの付き合いよりも少しだけ長いんです。
最初から使いこなせていたわけではもちろんなく、焦がしては凹み、それでもめげずにメンテナンスをし、ということを何度何度も繰り返しました。
人間関係と同じです。
お好み焼きにはとても活躍してくれましたが、肝心の炒飯には苦戦しました。出来上がった炒飯よりフライパンにこびりついているお米の方が多いんじゃないかという時もあったかもしれません。
そんな悶々とした日々を送っていた時に、テフロンのフライパンを使った料理方法に惹かれてしまいました。フライパンを温めないままに具を乗せ、弱めの中火で調理するという方法です。ふらふらっと2007年にテフロンのフライパン(しかも22cmと26cmの2本)を新調までしてしまいました。
3年目の浮気です。揺れる思いです。
実はテフロンとのふたまたは11年も続き、テフロンと最終的に別れることができたのは2016年です。
鉄のフライパンの扱いに苦労したのは、何と言っても火加減の科学がわかっていなかったことに尽きると思います。「強火」信仰から抜け出すのに随分と勉強しました。
加えて、ペラペラのターナーの存在と、こびりついた時の対応方法さえ知っていれば、もう少し早くテフロンとお別れできたかもしれません。
テフロンとの付き合いはそれなりに心地よいものでしたけれど、人間として成長させてくれたのは鉄のフライパンでした。
フライパンについては随分と調べていたようで、デパートの調理器具売り場に何度も足を運んだ記憶がパートナーにも残っています。
当時、「魔法のフライパン」とかいうのが3年待ちになっていたようなので、皆さん、テフロンには満足できず、かといって普通の鉄のフライパンは持て余し、マジックを求めていたのかもしれません。
そんなものないのに。

鉄のフライパンは扱いが難しいし、面倒だという先入観を持っている人が多いと思います。さいとうさんの扱い方を聞かせてください。

一通り教科書的な取り扱いを経た上で今の方法にたどり着きました。数多(あまた)の焦げ付きの上に成立した取り扱いについて語ります。
さいとうの語り:鉄のフライパン取り扱いについて語ります
火加減が大事だと思っています。洗ってから乾かす時に強火にする以外強火は使いません。
フライパンを最初に温める時も強火は使わず、優しい火加減でフライパン全体が満遍なく温まるようにします。
火加減に気をつけるほか、フライパンのコンディション、油の様子の観察眼を養うことをお勧めします。
コンディションは、例えば油を引かずに乾煎りしたあとなんかは油分が足りなくなってかっさかさになっているので、いつもよりじっくり時間をかけて多めの油を馴染ませるとか、そういうことです。
油の様子は、フライパンに引いた油の表面をよく見つめてください。ゆらゆらしてきた時が食材の投入タイミングです。そのタイミングなら油はねもないと思います。
人間関係と一緒です。
それなりに難しいですけれど、難しいことを全て避けてたどり着く場所が、自分が本当に行きたいところなのかどうかということだと思います。
「楽」は「楽しい」とは違うんだと思います。「楽しい」ことは「楽」の先にはないです。
「楽がしたかっただけなの?」と問いかけるのはハナレグミの「さよならCOLOR」でした。
ただ、自分をつぶしかねないほどの難しいことなら、さっさと逃げるに限ります。
「退くのも勇気」と『もののけ姫』でアシタカも言っています。
フライパンだけに、熱く語ってしまいました。

油の様子の観察眼はなかなか育ちません。油返しはどうしていますか。

油返しはしていません。あれは、料理人が強火でガンガンに熱したフライパンを冷ますためにやっている部分もあると思います。せいぜい中火程度でゆっくり温め、適量の油を加えて表面がゆらゆらするまで馴染ませればこびりつくこともないと思います。
油返し用のオイルポットも持つ必要があるので、ぼくは避けています。

使用後の洗い方は第1回「わたしとたわし」で教えてもらいました。
洗剤は使わず、お湯とたわしで汚れを落とし、火にかけてよく乾かすのですね。
そういえば、さいとうさん。趣佳でも棕櫚のたわしを扱い始めました。店長が決心したようです。

棕櫚のたわし、扱っていただけますか。ありがたいことです。今度よくお礼をお伝えしなくては。商店街で棕櫚のたわしを買うことができるのは素敵です。
話を戻して、フライパンの洗い方は常識的な扱いだと思います。でも、よくよく考えると、これが一番ハードルが高いかもしれないんです。

どういうことですか?

流しのサイズは奥行き40cmちょっと、幅が60cm〜70cm程度だと思います。26cmのフライパンと比べると思ったより大きくもない。

奥行き40cmちょっとと比べるとそうですね。

フライパン料理は温かいうちに供したいので、献立の最後になりがちだと思います。最後の料理を終えた時に流しが洗い物で占領されているとフライパンを洗うスペースがありません。

料理中に使った調理器具が流しに積み重なっている。

そんな状態でフライパンを無理に洗うと、積み重なったさして汚れてもいない調理器具が油でベトベトになる可能性だってあります。

無駄に洗い物が増えて、二次災害です。さいとうさんはどうしてるんですか?

その質問、待っていました。
料理中に出る汚れ物は油で汚れていることは少ないと思います。そういうものは洗剤を使う必要もないので、ガラ紡で作った布巾で洗います。手の空いた時にちゃちゃっと洗っていけば、料理を終える時には流しに汚れ物はほぼない状態になっていると思います。

言っていることはわかりますが、確かにハードルが高いかもしれませんね。

だから我が家の水切りかごのサイズは大きいんです。

話を戻して、収納時も常識的に油を引くのですか?

収納時に油は引きません。使う頻度、保管場所にもよると思いますが、我が家では割と使用頻度が高く、扉のない場所に吊るしっぱなしにしているので湿気の心配もありません。錆びる心配より、むしろゴキブリを呼び寄せる可能性に対する恐怖が強いです。

一般的に言われる扱いよりも随分と手抜きしているように思います。それで大丈夫なんですね。
第2回:鉄男のフライパン-後編-は、近日公開。多分。
タイトルイラスト:小林あつ子
https://atsukokobayashi.tumblr.com/